設立趣意

法秩序の維持と治安の確保は、国家社会が健全に発展してゆくための基盤であります。我が国は、かつて世界に冠たる治安の良い国と言われておりました。

しかし、その後、犯罪情勢は次第に悪化し、最近では、殺人、強盗等の凶悪犯罪が報道されない日はほとんどなく、国民のいわゆる体感治安はますます悪くなっており、現に、犯罪者の増加により、刑務所は過剰収容状態にあると言われております。このような犯罪情勢の悪化の原因としては、家庭のしつけや教育機能の低下、地域社会における連帯感の喪失、利己的風潮の蔓延等により犯罪や非行の発生を抑制する国民の規範意識が低下してきていることに加え、国際交流の活性化に伴う外国人犯罪の増加や銃器、薬物の規制が困難になってきていることなど、様々の社会的要因が指摘されております。したがって、犯罪や非行の発生を抑制するための対策は、広範多岐にわたり、それらのすべてを実現してゆくことは、必ずしも容易ではありません。

しかし、犯罪の中のいわゆる再犯に着目すると、その対象者は、既に犯罪で検挙された者であり、その改善更生を図ることによって、防止できるものであります。最近の統計によれば、一般刑法犯で検挙された者のうち、再犯者の比率は、38.8%であり(平成19年版犯罪白書)、かなりの割合を占めております。また、非行に陥った少年の更生を図ることが、将来の犯罪防止に寄与することは明らかであります。したがって、犯罪者や非行少年の改善更生を図ることが、治安の向上のためにさしあたって取り組むことのできる効果的な方策であると言えます。

ところで、犯罪者や非行少年が、善良な社会の一員として更生するためには、就職の機会を得て経済的に自立することが、極めて重要であります。家族や親戚から遠ざけられている彼らが、経済的に自立できなければ、再び犯罪や非行に走らざるを得なくなることは容易に想定できることであります。そのような観点から、犯罪者や非行少年であることを承知した上で、善意の篤志家として彼らの雇用に協力する事業者が、現在、全国に約1万いると言われております。しかし、職を求める犯罪者等の数に比しその数は絶対的に不足しているのみならず、地域や周囲の人の理解と協力が欠けている中でそれらの雇用を継続することは、多くの苦労と困難を伴うものと推察されます。

翻って考えると、治安の確保による恩恵は、社会全体にもたらされるものであり、犯罪者や非行少年の就労の確保についても、本来、ごく一部の善意の篤志家の手によってではなく、経済界全体の協力と支援によって支えられるべきものと思われます。そうであるとすれば、事業者団体は、犯罪者等の就労支援が重要であるとの考えを傘下の事業者に浸透させることに協力するとともに、自らは犯罪者等を雇用できない大企業その他の企業は、資金面で協力することとし、その資金を利用して実際に犯罪者等の雇用に協力する事業者の数を増やすとともに、それら事業者が犯罪者等へ支払う給与等について助成するなどのスキームが必要であると考えます。そのようなスキームを可能にする組織として、まずは中央に全国就労支援事業者機構を立ち上げ、その上で全国各都道府県にそれぞれの地域の就労支援事業者機構を設立するという計画であります。

これに併せて我々は、札幌保護観察所の管轄区域においても、特定非営利法人札幌就労支援事業者機構を設立しようとするものであります。

後の世代に、安全で安心して暮らしてゆける日本の社会を残していくことは、現在我が国で活動している我々世代の責任であります。また、治安が社会の発展の基盤であることから、企業としてそのために応分の協力をすることは、企業が果たすべき社会的責任(CSR)の基本でもあります。

そして、この組織を特定非営利活動促進法に基づく法人とすることによって、法に定められた法人運営や情報公開など組織の基盤を整備して社会的信用を高めるとともに、充実した組織運営を明確な責任のもとに行いうるようにして事業を遂行しようとするものであります。